2020年8月13日。
東北遠征、最終日に挑んだのは早池峰山。
山頂で日の出を見たい、そんな願いはガスに阻まれましたが……
いきなりの寝坊
前日の記録はこちら。
前日の8/12は、八甲田山を下山した後、宿泊先である盛岡のホテルに向かいました。しかしこの弘前→盛岡間が私が想像していたより遠く、休憩をはさみながら向かったところ、ホテルにチェックインできたのは18時過ぎに。
翌8/13のターゲットは早池峰山。そして、その早池峰山では山頂から日の出を見ようとたくらんでいました。毎年、夏シーズンにはどこかの山の上から日の出を見ることを続けてきていて、今年はちょうどいいのでこの山にしようと。
そう計画して逆算すると、山頂で日の出を迎えるためには、ホテルを0時には出発しなければなりません。なのでもっと早くホテルに着いて速攻で寝るつもりだったのですが、いきなり出ばなをくじかれる展開に。風呂から上がって一息ついたときには、もう20時を回っていました。
そしてそこから少しでも寝ようとしましたが…… こういう心理の時は寝られないものですよね。睡眠薬も全然効かず、それでも何とか寝付いたのは23時頃だったでしょうか。それで起きたのは1時半すぎ。
ああああ!やっちまった……!
慌てて着替えてホテルを飛び出し、現地に急ぎます。しかし盛岡市街地から早池峰山の登山口までは1時間以上…… 河原坊の駐車場に着いたのは、もう2時40分を回ったころでした。
熊と濃霧と
今日の登山もコースとしてはオーソドックスな道を選択していて、河原坊から小田越を経由して山頂を目指すことにしています。コースタイムは3時間強。一方、日の出(4:45)まではあと2時間しか残されておらず、状況は絶望的です。
早池峰山に登るのは初めてですし、深夜にヘッドライトを頼りに歩くのは昼間よりも時間がかかるものですから、コースタイムを巻ける要素がありません。
ただそれでも、できることなら山頂で日の出を見たい。そしてその写真を東京にいる推し(立花日菜さん)に見てほしい。そんな思いで、とにかくやれるだけのことはやろうと思いました。2時50分、河原坊駐車場を出発。
駐車場を出てすぐに、登山口があります。
本来はこの河原坊にも登山口があって山頂に直登できるのですが、2016年に崩壊したまま復旧していません。ですので、こちら側(南側)から登るのなら小田越を経由して小田越コースを使うことになります。小田越には駐車場はないため、まずは小田越まで2kmの車道歩きに。
とにかく少しでも早く……!という思いで急ぎます。この時、ずいぶん息が切れるので、しばらく登山してなかったからなまっちゃったなぁ……なんて思っていたんですが、河原坊→小田越は190mの上り区間。濃霧だったので行きは先が見通せませんでしたが、帰路に改めて見てみると結構な急坂で、こりゃ息も切れるわって感じでした。
小田越の登山口着、3:17。CT40分のところを27分で突破してきました。さあ、時間がないぞ、どんどん行こう!
ここからは樹林帯と岩場を経て山頂に向かいます。
今日は登山としてはコンディションが良くなく、まず今障害になっているのは濃霧。深夜の樹林帯はただでさえ道迷いしやすいのに、この標高で早くも完全に雲の中に入っていて視界は数メートルしかありません。ということで歩きだしは結構不安だったのですが、幸いにも登山道は完全な一本道で、目の前しか見えない状況でも迷わずにすみました。
次に問題なのは熊。私はツキノワグマは怖いとは思っていませんけど、そうは言ってもバトルになれば血だらけになるのはこっちなので遭遇したくはありません。この登山道に来るまでの林道には普通に熊がいたので、熊鈴でも……と思うも、強風で風の音が強いので熊鈴なんか聞こえないかも。そこで、歌いながら登ることにしました。今日のテーマは渕上舞さんの「リベラシオン」。山頂まで延々とリピートしながら登っていきます。どうせ今、この山にいるのは私だけですしね。♪100年先の未来まで届けー!♪
見えない足場と強風
そうしているうちに、樹林帯は意外とあっさり抜けました。
その先は山頂までずっと岩場。
行きは当然何も見えなかったので帰路に撮った写真ですが、このような岩場がひたすら続きます。ただ、この山はもともとこうなのか、整備されたゆえなのかは分かりませんが、
・浮石がほとんどない
・一つ一つの岩が大きくない
ということで、この画像でイメージされるよりはずっと登りやすい道だと思いました。さすがは百名山ですね。どこかの男体山とかいう山も見習ってほしいわ
ただですね……
山屋さんなら分かると思いますが、岩場は次に足を置く岩だけではなくて二歩三歩先の岩まで見ておかないと、その先で段差が急になったりして詰むことがあるものです。しかし今はガスが濃すぎてヘッデンを拡散モードにすると真っ白で何も見えず、集光モードにすると狭い範囲しか見えない、ということでルートの選定ができません。なのでだいぶ苦戦しました。思えば深夜にガスの中で岩場に挑むのは初めてで、こんなに大変なものなのかと……
更に、高度を上げるにしたがって風がとても強くなってきました。
天気図ではとても風が吹きそうには見えないのに、西からの風の強さはよろめくほど。ガスの中なのでびしょびしょに濡れるし気温は12℃しかないし、寒いなんてもんじゃありません。夏山で登りなのにレインウェアを着たのなんて久しぶりでした。
頑張る理由
やがて、空はうっすらと明るさを帯びてきました。
とはいえ相変わらずガスの中なので、視界は全然ないですけどね。上の写真はiPhoneXちゃんが頑張って撮った写真なんですが何を撮ったのか分からない……というかデジタルなのによくこんな油絵みたいな絵が撮れたな(笑)
今日は標高1,060mの河原坊駐車場から雲の中だったので、山頂まで900m登ったら雲の上に抜けるのでは?という期待があったのですが、話はそううまくは運ばないようです。ただそれでもときおり雲が薄くなるタイミングがあり、少しだけ希望も見えてきました。
気になっていたハシゴ場も難なく抜け、傾斜が緩むとそこは剣ヶ峰分岐。
あとは平和な木道を水平移動し、山頂避難小屋の脇をひと登りすると……
はい、早池峰山(1917m)・山頂に到着しました。
ーーー
時刻は4:47、駐車場を出てからちょうど2時間で、コースタイムを1時間以上短縮。山頂も雲の中なので結果的にダメでしたが、もし晴れていたらぴったり日の出の時刻に間に合ったことになります。
これには我ながらびっくりです。よく間に合ったなと。正直、スタートした時はとても間に合わないだろうと思っていました。初めての登山道で道も知らないし、そもそも真っ暗で道が見えないし、道中は暴風でしたから何一つタイムが縮む理由がありません。
ただ……
山頂で日の出を撮りたいな、って気持ちだけはずっとありました。これは自分が見たいというより、推しに見せてあげたいなと。
今になって冷静に考えれば、別にその写真を推しが見たいとは限らないし、ありがた迷惑かもしれないし、独り相撲だと思うんですけど、だいたい山に登っている時は糖分不足で頭がおかしくなっているものなので、推しのために!みたいな気持ちだけでここまで登ってきたわけです。
つまり頑張る理由があれば今でもそれなりに早く登れるってことですね。逆に言うといかに普段頑張ってないかがわかります。まあ、今の自分にとって一番大切な人は推しなので、せめてその推しに関しては頑張れるってわかっただけでもいっか。
山ガールの歓声
さて、そんな感じで山頂もガスっているわけですが
それでも一瞬だけ雲が切れる瞬間があり、完全に絶望というわけでもなさそうです。帰路を急ぐ必要もありませんから、しばらくこのまま待ってみましょうか。
風は強いままで気温も10℃しかない中、一縷の望みに賭けてじっと寒さに耐えます。
そうしているうちに、貸し切りだった山頂に山ガールのグループが登ってきました。自分が深夜に登るのは別に特別なことだとは思いませんけど、なぜか他の人がそうしているとビビりますね。うわっ、ガチ勢が来た!みたいな。
そうして待つこと一時間。
何も見えない山頂でもなぜか楽しそうだった山ガール達の歓声が大きくなってきました。ん?と思って顔を上げると、ところどころ青空が見え始め
まるでザァッという音でも聞こえたかのように、周囲から一気に雲が流れ去りました。
やったぁ!晴れた!!
もうこの瞬間は感動でしたね!
最初からこの眺めだったならそこまでの感動はなかったと思うんですけど、視界が全くない状態だったところから一瞬で世界が変わったので……
遠くには陽光に輝く太平洋。それが見られただけで感無量です。日の出は見られなかったけど、苦労は報われた……!
ザ・夏山、ですね! 気分爽快です。
なお、山頂はこんな感じの岩ゴロで広く、この東方面はともかく、西方面は岩の一つ一つが大きいので移動するのも困難です。西方面を眺めていた山ガールの一名がブロッケンに遭遇し、他のメンバーの方々もそちらに集まったりしていましたが、私はもうそこまで行くのが面倒で見送りました……
南方面と北方面。
雲は断続的に山頂にかぶってくるので、雲が流れ去った一瞬がシャッターチャンスです。晴れ待ちの時間も含めて、こんなに山頂にいたのは初めてかも、というくらいのんびりと山頂でのひとときを楽しみました。
一瞬でも、景色が見られますように
そうしているうちに、山ガールの皆さんは先に下山していきました。「騒がしくしてすみません!」とのことでしたが、私はたとえば「山頂で孤高のひとときを過ごし、山と向き合うことで自己を見つめなおしたい」みたいな高尚なことを目的に登ってきたわけでは全くなく、推しに写真を見てほしいというある意味煩悩にまみれたことしか考えてないわけですから、他の人たちが楽しそうにしているのは全然OKです。彼女らが素敵だなと思ったのは、最初の頃の眺めが全くない状況でもそれなりに楽しそうだったことですね。どんな状況であれ、山にいることを純粋に楽しめるのは羨ましいです。
そしてこちらは立花日菜さんへ、エゴサしてくださると信じて。
— K-TARO (@ktaro_77) 2020年8月12日
今日は利恵と一緒に、岩手の早池峰山に登っています。日が昇るまでは雲の中でしたけど、待っていたら晴れてくれて、最高の展望に恵まれました。少しでもこの清々しさが届いてくれたら幸いです。
東京暑そうですが、どうかご自愛ください pic.twitter.com/rWzkFVBXRZ
私もひーちゃんへのツイートもできたので、そろそろ下山することにします。ちなみに風は全然収まっていないので、この写真を撮るのは至難の業でした。手を離すと2秒もしないうちに利恵は吹っ飛んで行って岩の隙間に落ちるので……
しかし、こうして晴れ渡るとその眺めはまるで天国のよう。
名残惜しいですね。ここに住んでもいい……そう思うほど、素敵な場所でした。
さて、では下山にかかりましょう。今日はこの後に八幡平のリベンジも計画しているので、スピーディーに行きましょうか。
そんな下山路は、相変わらず強風とガスの中でした。
なお、高所恐怖症の方は気にされるかもしれないハシゴ場は、上から見るとこんな感じです。二段構成で、下の段は左に巻けますけど、上は一枚岩なのでハシゴは避けられません。
ただ、高所恐怖症の観点から怖いか?といえば怖くはないですよ。高度感がないし、斜度も緩いし、もし足も手も全部離して落ちたとしても(そんな人いないと思いますが)すぐ下で止まります。岩とハシゴが近すぎて横棒を土踏まずにひっかけられない(つま先しかかからない)段があるので微妙に登りにくいですけど、手さえ離さなければ落ちませんのでご安心を。
降りていく道は尾根なので晴れていれば見通しは最高だろうな、と思わせます。あ~、これはもうリベンジするしかないな!
ただ、吹きさらしの尾根なので風は容赦なく吹き付けてきます。これでも日の出前に比べればだいぶマイルドになったのですが、この時間から登ってくる大多数の登山者にとってはこれが今日の風ですから、皆さんやはり大なり小なりメンタルがやられているようです。景色も見えませんしね。
「上までずっとこんな風ですか?」「頂上は晴れてましたか?」何度そう問われたか分かりません。前者は素直にそうですと答えるしかないですが、後者は悩みますよね。自分がいたときは確かにたまに晴れていましたが、どうも天気は下り坂の様子。晴れているという保証はできません。
でも「ずっと雲がかぶっているわけじゃないので、晴れて景色が見えることもありますよ!」と答えていきます。苦労の度合いこそ人によって違っても、みんな自分なりに頑張って登るんですから、せめて少しでも山頂で景色が見られる瞬間があって欲しい、そう願って。
(実際のところ、やはりこの日は最後まで山頂は雲の中でしたが、それでもたまに景色が見られる瞬間はあったようです。みんながその一瞬に巡り合えていればいいのですが)
7:00に山頂を出て、小田越の登山口には8:14に到着、
河原坊の駐車場に戻ったのは8:35でした。お疲れさま!
この後は初日のリベンジということで八幡平に向かうつもりでしたが、ライブカメラ(見返峠(八幡平アスピーテライン))を見ると今日も相変わらず灰色でしたので、すっぱり割りきって、今回の東北遠征はこれで〆ということにしました。
昨日の八甲田山、そして今日の早池峰山は、どちらも天候は良いとは言えなかったですし、シーズンを二週間ほど外した感もありますが、初めての山域として雰囲気やコースを知れたのは大きな経験になりました。どちらの山でも素敵な景色が見られましたし、満足して帰途につくことができます。
今日の早池峰山は、河原坊からのコースなら道中に危険個所もなく、晴れていればすぐに展望も開けますし、片道3時間とお手軽登山。夏でも天候によってはそれなりに寒く、道中はずっと吹きさらしなので悪天候での登山は控えてほしいですが、万全の装備をもって天気の良い日を選んでいけば、きっと素晴らしい山行ができると思います。
何年後になるか分かりませんが、次に来るなら八甲田山と同じく7月下旬を狙いたいですね。この山にしか咲かない高山植物を持ち、花の百名山にも選定されている名峰。その最盛期の姿が見られる日を、今から心待ちにしています。