Infinity

登山とマラソン、ときどきゲーム

三本槍岳

f:id:k-taro77:20180225192307j:plain

2018年2月25日。

久々にアイゼンなりスノーシューが必要な雪山に行きたいな…… そう思って選んだのが地元のこの山でした。

登山そのものは問題ありませんでしたが、登り始めるまでが一苦労だったりして……

 

気づけば今年ももう2月下旬に差し掛かりました。日差しも風も徐々に春めいてきて、春大好き人間の自分としてはテンションも上がってきました。正直、冬って好きじゃないんですよね、山に行っても冬枯れの景色ばっかりだと楽しくないのです。

ただ、今年は春を迎える前にやっておかねばならないことがあります。それは、一度はそれなりの雪山に登ること。一昨年はスキー、昨年は君の名は。のために雪山には全く行っておらず、これではせっかく都岳連で学んだ技術も失われてしまいますから。

とは言え、ブランク明けなのでいきなり八ヶ岳などに挑むのは無理があります。そこで、今回は三本槍岳に挑戦してみることにしました。

冬季に三本槍に向かうのはこれで二度目。前回は2010年で、この時は途中敗退しています。あの時のリベンジを兼ねて、今度こそ山頂へ。

 

※今回は登山前に迷走しています。目次をつけておきますので、本編だけをご覧になる方は目次の「マウントジーンズから仕切り直し」をクリックして飛んでください。

 

 

北温泉ルートで登るつもりが……

さて、一口で三本槍に向かうといっても、そのルートは主要なものだけでも4つあります。

1. 大丸から峰の茶屋跡経由で向かうルート

2. 白河高原スキー場跡から赤面山を経由するルート

3. マウントジーンズスキー場のゴンドラを使うルート

4. 北温泉から登るルート

このうち、1(峰の茶屋)は、茶屋跡の稜線歩きが自分にはレベルが高いので無理、2(白河高原)はルートを熟知していないので今回はパス、となると選択肢は3か4になります。

ここで楽なのは3(マウントジーンズ)ですが、3はゴンドラが動き始めるのが8時半ですから、それ以降からしか登れないということになります。雪山に長居するつもりはなくて、できれば日が高いうちに下山したい…… そう考えると、選択肢は4(北温泉)しか残りません。

この北温泉からのルートは夏にさんざん通っていますから、道の様子は分かっています。ならば決まりだ、そう思いました。

 

しかしこの「道の様子は分かっている」は、単なる思い込みに過ぎなかったのでした。

 

f:id:k-taro77:20180225213734j:plain

ということでやってきました、北温泉駐車場。時刻は4時40分、辺りはまだ真っ暗です。

 

しかしあれですね、冬場の早朝からの登山はやっぱり気が進みませんね。装備が多いから暗いとなにかと面倒ですし、そもそも寒いから車外に出たくないですし。

でもしゃーない。ここまで来たら行くしかありません。

f:id:k-taro77:20180227002237j:plain

登山口は北温泉の脇にあるので、まずは駐車場から北温泉を目指します。

ちなみに、この北温泉までの下りはなにげに難易度が高いです。傾斜がそこそこある上にアイスバーンなので。冬場に来るたびに思いますが、こんなカチコチな道を宿泊客は一体どうやって通っているんだろうと不思議でなりません。負傷者続出だったりして……

 

さて、こうして4時53分に駐車場から歩き始めたわけですが

f:id:k-taro77:20180227002731j:plain

5時36分には、その道を引き返している自分がいました。

 

いやぁ、那須の積雪をなめていたようで……

 

北温泉まで下りて、そこから登山道にとりついたまでは良かったんですよ。で、登山道はそこからつづら折れの急登になるわけですが、この斜面は少しだけ危なくて、足を滑らすと下の沢に落ちるので、夏でもトラロープが張ってあるのです。

で、そんなことは当然知っていたんですけど、そこにまあばっちり雪が積もっているわけですよ(これが予想外)。最初はそれでもツボ足で登っていたんですが、途中でこりゃ危ないなってことでアイゼンを着けまして、「こんなところでアイゼンか……」なんて自嘲しながら登っていたら、最初はしっかりついていた複数人分のトレースがいきなり消失。そして目の前にあるのは夏道なんかどこにあるのかも分からないただの雪の斜面。

 

思わず足が止まりました。

いえ、もちろん夏道なんか気にせずにトラバースしていけばいいんですよ。この急登がずっと続くわけでもなく、たぶん20~30分ほど登れば傾斜が緩むところまで行けるでしょう。

でも…… 何というか今の自分の能力(体力、技術、etc.)と微妙に合ってない気がしたんですよね。玄人が見れば鼻で笑うような斜面でも、自分は滑ったらそのまま下まで落ちるんでしょうし。しかも今はまだ登りだからいいですが、帰りはここを下るのか……と思うと、なんかちょっと無謀だな、という気になってしまいました。

なのでそこでUターン。何しに来たんだ……と思いながら、トボトボと駐車場に戻りました。

 

これで登らないなんて

この後は、朝焼けが綺麗だったので、Twitter用のネタ写真を撮るために大丸駐車場の展望台へ。

f:id:k-taro77:20180227010312j:plain

その大丸から那須岳を眺めると、茶臼はもちろん朝日岳もクリアに見えています。これを見ると一瞬、せめて茶臼にでも登ろうかな……と考えたりもしました。

ただ、この日は天気はともかく天気図は良くて、昼頃になれば風も治まるであろうと思われるのですが、この朝6時の時点では暴風が吹き荒れてまして、車が揺れるほど。さすがにこの状況で登りたいとは思えません。無理に登っても峰の茶屋跡で吹っ飛ばされるのがオチです。

風が治まるのをここで待つのも嫌だし、もういいや、今日は帰ろう、そう思いました。

 

ということで実際に帰った、いや帰りかけたのですが、那須ICから東北道の上り線を走っていて、ふと右側の車窓を見ると、高原山、日留賀岳、そして大佐飛山が高曇りの空の下でグレーに沈む中、那須連山だけが青空をバックに白く輝いているじゃありませんか。

 

……これで登らないのか……

 

その光景を見ていると、どうしても心がざわついて落ち着きません。

もちろん晴れているのは今だけで、この後は曇るんだとは思いますよ。ただ、悪天にはならないでしょうし、風も落ち着くはず。なのに登らないということは、つまり今シーズンはもう登らないと言っているのと同じことです。いやいや、それはないでしょ、今年は雪山に行くって決めてなかったっけ?

……ということで、走りながら悩んだ挙句、黒磯板室ICで降りて再度高速に乗り直し、再び三本槍岳を目指しました。北温泉から登れないならば、次はマウントジーンズから。時間は少し遅くなってしまいますけど、とにかく行けるところまで行ってみることにしましょう。

 

マウントジーンズから仕切り直し

こうして朝からずいぶん時間と体力を使ってしまいましたが、ともかくリトライです。

マウントジーンズ駐車場に着いたのは8時10分。さすがに今日はシーズンだけあって、ゴンドラ運行前から駐車場はかなりの賑わいを見せていました。

f:id:k-taro77:20180227193654j:plain

観光客用の往復ゴンドラ券¥1,410を購入したら、まずはインフォメーションで登山届を提出します。(用紙はインフォメーションでもらえます) 下山後も申し出る必要がありますから、忘れて帰らないようにご注意を。

f:id:k-taro77:20180227195727j:plain

ゴンドラ山頂駅着、8:50。さて、では改めて行きますか!

 

久々のスノーシューは楽しくて

まずは右手に、道なりに登っていきます。ここは圧雪されていますからツボ足で。

f:id:k-taro77:20180227200050j:plain

うん、雰囲気は悪くないですね(^-^)

f:id:k-taro77:20180227201116j:plain

ゲレンデの行き止まりに展望台?があり、そこからはスキー場外になりますから、ここで早くもスノーシューを装着。

EVOアッセントくん、久々の出番だね! 前回使ったのは2012年の四阿山ですから、実に6年ぶり……宝の持ち腐れもいいところです。なお登山靴もファントムガイドで、お前はローツェにでも登るのかと言いたいくらい無駄に装備だけは充実していますが、スノーシューはともかく登山靴はいいものを用意していた方がいいと思いますよ。

 

f:id:k-taro77:20180227202059j:plain

すでに何名か入山されているようでトレースがありましたし、夏道を大きく外しているわけでもなかったので、素直にそれを辿っていきます。

 

今日の雪質は那須にしては良くて、それをスノーシューで踏んでいくとキュッ、キュッと小気味いい音を立てます。

うん、やっぱりこういうコンディションだとスノーシューは楽しいですね! ツボ足やワカンで沈まなかったときは単に雪が締まっていて沈まなかっただけ、という感じになりますが、スノーシューは雪をしっかりとらえて固めていくこの感覚が気持ちいいです。

 

ちなみに、この中の大倉尾根からの三本槍コースは、那須岳でもっともスノーシューが活躍できるコースと言っても過言ではありません。隣の茶臼や朝日は風で雪が飛んでいて岩と氷のミックスになっていますからスノーシューの出番はないですが、こちらは最後まで緩斜面で岩場もほとんどなく、ここでスノーシューを使わずにどこで使うんだと言いたくなるくらい、スノーシューにはうってつけの場所。

なので今日はワカンは持ってきてないです。アイゼンは持ってますが、2月はまだ雪が凍っていませんから出番はないでしょうね。山頂までスノーシューで進みましょう。

 

f:id:k-taro77:20180227204252j:plain

しばらく緩い尾根を歩くと、樹林を抜けて目の前にスダレ山が現れます。

このスダレ山と、三本槍山頂直前の二か所が少し急な登りになりますね。汗をかきすぎないようにペース調整しながら登っていきましょう。

f:id:k-taro77:20180303164306j:plain

もっとも、急といっても斜度はこの程度。上部はもう少し急になるものの、凍結していなければスノーシューで不安なく登れる斜面です。

f:id:k-taro77:20180303164427j:plain

この日、マウントジーンズからの入山者は自分が三人目。トップはスキーの方で、二番目の方はワカン、私はスノーシューですからまさに三者三様でした。

そしてこのような山だとやっぱりスキーは早いです。四阿山の時もそうでしたが、スノーシューとスキーとでは勝負にならず、あっという間に視界から消えていきました。また、二番目のワカンの方はむしろ私より不利なはずですが、登山者としてのスペックの差が大きいようで、一時的に追いついたりはしたものの、最後にはやはり置いていかれました。

 

でもこうして自分より上のレベルの方と会えることは、私にとっては冬山の数少ないメリットの一つだったりします。夏は玉石混合というか、特に栃木では大抵の方は自分より遅いので、周りから刺激を受けることって少ないんですよね。私なんかまだまだヒヨッコだなと思えるのは、ある意味ありがたいことです。

 

山頂まで難所なし

急登を登りきれば、あとは尾根伝いに淡々と進むだけ。

f:id:k-taro77:20180304123557j:plain

この頃はまだ風が吹いていましたが、ちょうどここは風裏だったので小休止にします。

f:id:k-taro77:20180304123731j:plain

赤面山を眺めながら。

はてなブログの登山グループの方々はベテランさんが多いのでこんなことを書くのもあれですが、ガチ雪山登山では行動中に大休止は取らないことが多いです。止まっていると冷えちゃいますからね。

 

その昔、都岳連の半年にわたる雪山講習を受けた際、受講生から「山行当日の昼食はどうするんですか?」という質問が出た時に、講師や一部のベテラン受講生が苦笑いしたことがありました。

いや、冬山では止まってガッツリ食事をしたりしないので……という答えで、彼らからすれば何を常識的な……と思われたんでしょうけど、でも聞きたくなるのも分かります。自分は個人で何度か雪山に行ったり教本を読んでいたから知っていましたが、最初は分からないですよね。

ということで今日も食事はパンとか軽めのものしか持ってきていません。行動時間も長くないですし、エネルギーは歩きながらチョコレートをちまちま食べるくらいで賄えるでしょう。(遭難に備えて、非常食は別に用意しています)

f:id:k-taro77:20180304123710j:plain

スダレ山からいったん清水平に下れば、あとは最後の三本槍岳への登りを残すのみ。

 

ここまでを見ていただいても分かる通り、この冬の三本槍への登山は技術的に難しいところは全くありません。遭難する可能性があるとすれば、スダレ山やこの先の斜面で雪崩に巻き込まれるか、この清水平でホワイトアウトして方向が分からなくなるかですが、今日はそのどちらも問題なさそうです。

ただそうは言っても雪山なので安易にお勧め、とは言いませんけどね。長く山をやっていると、遭難についてはいろいろ言いたいことも出てくるのですが、今日は無駄話が長くなっているのでまた次の機会に。

 

f:id:k-taro77:20180304125918j:plain

ここで、先行していたスキーの方が早くも戻ってきました。

前のワカンの方と私に挨拶しながら、雪面に綺麗なシュプールを描いて滑り降りていきます。

うーん、やっぱりいいよね、山スキー!

f:id:k-taro77:20180304131835j:plain

一方こちらはノロノロと登っていくだけですが、そうは言ってももうゴールはすぐそこです。

急登を登りきると空が広くなって、そこからは緩い斜面を3分ほど歩けば……

f:id:k-taro77:20180304132047j:plain

はい、三本槍岳・山頂に到着です!

時刻は11:05。登り始めてから2時間半ですからちょっと遅めですが、久々の登山だと思えばまあ満足(^-^)

それに、とにかくここには一度登っておきたかったんです。毎年登る、登ると言い続けてもう何年も過ぎてましたからね。難しくないし自慢にも何にもなりませんけど、とにかく目標達成ということで嬉しかったりしました。

 

無風の山頂で

前のワカンの方は大峠に下りていったので、しばらく山頂を独占。

f:id:k-taro77:20180304150430j:plain

f:id:k-taro77:20180304150448j:plain

この頃になると風はすっかり止み、山頂は文字通り無風になりました。

すると、雪が音を吸収することもあって、そこはまさに無音の世界に。

空には雲が流れていて、その隙間から時折日が差しては雪面が輝く…… 音のない空間でそんな光景を見ていると、確かにこれは雪山でしか味わえない感覚なんだろうな、と思います。地球というよりも、何か別の星に一人で降り立ったような気分でした。

 

寒くもなかったので、前言撤回みたいですがここではずいぶんのんびりしてしまいました。気温は結局出だしからマイナス6℃で変わらず。薄曇りなのを除けば、この時期にしては上々のコンディションだったと言えるでしょう。

 

f:id:k-taro77:20180304152846j:plain

そうこうしているうちに徐々に人が増えてきたので、最後に裏那須の山々を眺めてから撤退。

いや~、しかしこの流石山、大倉山、三倉山の積雪量は半端ないですね! なんちゃって雪山のこちらとはレベルが違います。他の登山者も、この光景を見て感嘆の声を上げていました。

f:id:k-taro77:20180304153248j:plain

帰りは下り主体ですから楽勝。

ちなみに、後から登ってきた登山者の中に若いボーダーの方がいまして、左側のシュプールはその方のものです。この中の大倉尾根から三本槍はバックカントリーで訪問する方も多いのですが、大半の方はスダレ山までで、三本槍まで来る人はそう多くありません。

なので若者がここまで来ているのはちょっと驚きでした。若いのにいい趣味をお持ちで(^-^)

 

f:id:k-taro77:20180304153646j:plain

右手に朝日岳を見ながらスイスイ下って……

f:id:k-taro77:20180304153721j:plain

13:13、スキー客でにぎわうゴンドラ山頂駅に帰還。お疲れさまでした!

あ、下山したらインフォメーションに伝えるのを忘れずに。

 


こうして、実に三年ぶりとなった(ちゃんとした)雪山登山が終わりました。

これまでに訪問してきた他の雪山(谷川岳、四阿山、北穂高岳)などに比べれば簡単ではありますが、地元なのに登れていないのがずっと気になっていたので、今回ようやく山頂まで行けて満足です。

 

雪山が好きか?と言われると答えに詰まるところもないではないのですが、ただやっぱり雪山にはここでないと味わえない感覚もあります。また、下手をすれば命に係わる分、夏山よりも慎重に取り組まざるを得ませんから、夏山に慣れてだんだんいい加減になってきていた気分を引き締めるのにはいい機会だとも思いました。

 

本格的に春山になる前に、あと1~2山くらいは登ってみたいですね。次はできれば、これまで冬に登ったことのない山に。