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登山とマラソン、ときどきゲーム

乗鞍岳

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2019年5月4日。

GWのお休みは、今年の雪山登山の締めとして乗鞍岳に登ってきました。久しぶりの3,000m峰、その山頂からの眺めやいかに。

 

※前置きが長いです。本編は「急傾斜のゲレンデを抜けて」をクリックして飛んでください。 

5月3日、3:00。道の駅 アルプスの郷には呆然としている私がいました。

そう、本当は前日の5月3日に登るはずだったのです。しかし、栃木を5月2日の22時に出てはるばる300km。あと20分くらいで登山口に着くかな そんなことを考えながら新島々を通過した時に、ふとあることに気づきました。

「あれ、俺、アイゼン持ってきたっけ?」

そして、車の中にアイゼンはなかったのでした……

 

ということで、3日は往復9時間と交通費16,000円を無意味にロストして終了。

こうなったらもうリベンジしないわけにはいきません。アイゼンを取りに帰ったらすぐに仮眠して、3日の21時、ふたたび長野へと出発したのでした。

 

満天の星空

乗鞍高原・三本滝レストハウスの駐車場着、2:40。

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駐車場は3割の入りといったところでしょうか。GW前半は延々2km路駐が続いていたりしていたそうですが、スムーズに止められて一安心。

さて、私のブログは、感想を書きたいというよりも紹介のつもりで書いています。ですので、既に乗鞍に登ったことがある方から見れば「そんなこと知ってるよ!」と思われることも多いかと思いますが、今回は特に説明多めで書かせてください。

 

乗鞍岳というと、登山をかじっている方としては「バスで登る」という印象が強いかと思います。これはその通りで、夏場は畳平までバスが通じていますので、多くの方がバスを利用することになります。

しかしこの道路は冬は雪に埋もれます。では冬期登山はどうするのかというと、まず厳冬期は乗鞍高原の休暇村までしか車で入れません。ですので、そこからMt乗鞍スノーリゾートのゲレンデを登っていくことになります。

やがて季節が春になり4月に入ると、おおよそ中旬~月末にかけて、休暇村の上の三本滝までの道路が開通し、マイカーで三本滝まで入れるようになります。(マイカーは夏季もここまでしか入れません) そして除雪が進むと更に上の位ヶ原山荘まで、次いで肩の小屋口まで春山バスが運行される、という流れです。

 

では今日はどうなのかというと、標高2,350mの位ヶ原山荘までのバスが運行されている時期です。ですのでそのバスに乗ってしまうのが一番楽なのですが、GWなのでバスは混みそうですし、できれば途中で日の出を見たいなという思いもあり、三本滝からヘッデンで登ることにしました。

三本滝の気温は0℃。風はほとんどなく、空を見上げれば降ってきそうな満天の星空が広がっています。これは今日は天気に恵まれそうだな、そんな期待を抱きながら、3:08、登山開始。

 

急傾斜のゲレンデを抜けて

三本滝はMt乗鞍スノーリゾートの途中にあるので、まずはゲレンデを登っていきます。

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この三本滝の標高は1,800m。山頂まで標高差1,200m強ですから、久しぶりにちゃんとした登山になります。余談ですが、休暇村の標高は1,600mなので、厳冬期は200m余計に登らないといけないことになりますね。う~ん、本当は厳冬期に来たかったんですけど、ちょっと大変そうだぁ……

登るゲレンデは上級コースなので斜度は厳しめ。面倒なのでここからアイゼンで行きました。

 

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息を切らせながらゲレンデを登りきると、開けた場所に出ます。(3:55)

ここがいわゆる「ツアーコース」の入り口。このツアーコースという用語、どのブログを見ても皆さん当たり前のように使っていて解説がないですが、要するに整地されていないゲレンデだと思うのが良いのかなと。BC用のエリアのようです。

正面に見えているのがそのツアーコースで、今日の前半はひたすらここを登っていくことになります。道幅は広く、一本道なので初めて来ても迷うことはないでしょう。

 

令和初の日の出

体調不良がずっと治らないのでペースは遅め。

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日の出はできるだけ上で見たいな……と思っていましたけど、振り返るともう空はだいぶ明るくなってきました。

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そしてここで初めて乗鞍岳が視界に。近いような遠いような……とは言え、今日のコンディションで登らないわけにはいきません。

そうそう、コンディションといえば雪の状態ですが、溶けたり凍ったりを繰り返しているようで、見た目は雪ですがこの時間帯はほとんど氷です。ストックの先が刺さらないくらい。これは登る立場から言えばラッキーで、アイゼンはばっちり効くし踏み抜かないし……と、極めて歩きやすい状態でした。

 

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4:57、自分にとっては令和になって初めてのご来光。

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乗鞍岳もだいぶ大きく見えてきました。頑張ろう!

 

GWの乗鞍を独り占め

5:15、登り始めから2時間ちょっとでツアーコース終点に到着。

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右手は位ヶ原山荘への登山道。山頂は正面方向なので私は直進します。

ここから山頂までは登山道と呼べるものはなく、ひと登りすると……

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広い雪原に出ます。悪天候時は道迷いしそうなので、無理は禁物ですね。

 

さて、どこから登ろうかな……

BC目的で入山する方が多いようで、剣ヶ峰周辺をよく見るとあらゆるところにシュプールが残っています。厳冬期は雪崩があるので選択肢は肩の小屋経由のルートしかありませんが、今日はその気になればどこからでも登れそう。

ただ、ハイマツ帯はもちろん、地面が出ているところも夏道でない場所については通行禁止、というルールがあります。厳冬期の下見も兼ねて、肩の小屋を目指すことにしましょう。

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位ヶ原山荘に泊まった方々が早出するかな……と思っていましたが、先行者はなく、静かな雪原を一人歩いていきます。右手には槍穂の稜線が見えてきました。

 

この雪原歩きは本当に最高でしたね。だってGWですよ、日本百名山の乗鞍岳ですよ、登山者でいっぱいだと思うじゃないですか。でも、今ここにいるのは自分だけ。風もほとんどないので、聞こえてくるのは遠くの鳥の鳴き声だけです。この非日常感はちょっと言葉では言い表せないくらい。私は山では一人でいたいタイプなので、こんなに贅沢な時間があっていいのだろうかと思うほどでした。

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そしてこの空の青さといったら!

3,000mの山の上に広がる空はどこまでも澄んでいて、吸い込まれそうなくらい。智恵子抄の「ほんとの空」ではないですが、ちょっと衝撃的な眺めでした。ああ、今日来られて良かった……!

 

直登かトラバースか

肩の小屋到着、6:43。

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※繰り返しになりますが、今日のペースは体調不良に加えてSNSで遊んでいたりするのでかなり遅いです。健脚の方ならもっと早く登れるはず。

 

ここから正面の朝日岳への登りが、今日の核心部になります。ストックとワカン(未使用)はここにデポして、ピッケルに持ち替えたらいざ出陣!

最初は夏道をたどって、やがて朝日岳の斜面へ。

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急斜面をまずは直登していきます。直登といってもフロントポイントで登ったら私のふくらはぎはもたないので、小さくジグザクに登ったり、スリー/ナインオクロックに切り替えたりして、できるだけ楽に。

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斜度は30度といったところでしょうか。

ただ今日ラッキーだったのは、凍っているとはいえ地面はあくまで雪であったこと。雪ならば、私のような未熟者の歩き方でもアイゼンはちゃんと効きます。

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一方、厳冬期はこの斜面がすべてこんな風にアイスバーンになるそうです。

この写真はヤラセで、ちゃんと蹴りこんでいないので爪が浮いていますが、厳冬期ともなれば氷も堅いのでやはりこのぐらいしか刺さらないかもしれません。

そう思うと、確かに厳冬期にここが核心部だ、怖いと言われるのがよくわかります。この斜面が全部氷だったらそりゃ怖いですよね、とてもピッケルで制動できるレベルではないので、滑ったらそのまま下まで落ちていくことになるでしょう。ああ、残雪期で良かった……

 

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そうしているうちに、だいぶ上まで上がってきました。

朝日岳は意外と高く、まだまだ右手方向に登っていかないといけないのですが、先へ進むトレースは朝日岳を無視してまっすぐついています。ここにきて私の怠け癖が発症して、まあ朝日岳はいいか、と(^-^;

トレースを利用させてもらって、蚕玉岳方向に直進しましょう。

 

快晴の山頂へ

蚕玉岳への最後の登り。

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酸素がだいぶ薄くなってきたので一歩一歩がきつく、何度も立ち止まりながら登っていきます。ただ、そんな中で……

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振り返ると、そこに見える槍穂のなんと見事なことか!

特にこの奥穂~前穂の稜線と、その下の谷筋の迫力はすごかったです。これぞ穂高、これぞ北アルプスという眺め。ある程度経験を積んできた山屋さんなら、この光景を見て心が動かされない人はいないでしょう。そりゃ登りたくなるわけだわ……

 

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さて、蚕玉岳を越えたらあとひと踏ん張り!

ザックはもう必要ないのでここにデポ(という名の放置)して、最低限の荷物だけをもって山頂を目指します。

夏に来たときはルンルン気分で登れたのに、今はこんな登りでも休み休みが精いっぱい。でも、歩き続ければいつかはゴールに着くもので……

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8:03、乗鞍岳・剣ヶ峰(3,026m)、登頂しました(^-^)

 

今日はコンディションが良すぎて技術的に全く難しくなく、誰でも登れるでしょ、と言われてしまうくらい簡単な行程ではあったのですが、そうは言っても雪の3,000m峰ですし、何より今年はずっと締めは乗鞍岳で!と言いながらなかなか来るチャンスがなく、このまま行けずにシーズンが終わるのか……と半ば諦めていたところでしたから、こうして目標が達成できたのはやはり嬉しかったのでした。

 そして喜びのあまり標高をミスタイプする始末(^-^;

 

温かくなると……

前回撮れなかった東方面のパノラマもばっちり。

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快晴無風、これ以上望むべくもない最高の天気の下、ゆっくりと展望を楽しみました。

 

そうしているうちに一人二人と、少しずつですが他の登山者も増えてきました。あまり長居するのも悪いので、ザックをデポしたところまで戻ってツイートして……

では、下山しましょうか。

 

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そんな帰り道、核心部はやはり朝日岳からの下り。

とはいえ、この時間はまだ雪が緩んでいなかったので、登りと同様に一歩一歩に信頼が置けて、特に怖くも感じず順調に下りられました。

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そんな雪も、雪原に降りたころにはグズグズに。

登ってくる方々の実に8割ほどはBCの方々でしたので、彼らにとっては特に問題にならないのだと思いますが、急傾斜を歩いて降りるのならこんな腐った雪は嫌だな、と思うような雪質に変わってきました。

その意味でも、今日は早出して正解だったなあとつくづく。

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なお、BCの方は早いと30分で三本滝まで下りられるとか。こちらは歩きなのでさすがにそんなに早くは下りられませんが、それでも急な下りではシリセードしてちょっと時間短縮したりして、11:00に三本滝の駐車場に戻れました。

降り始めたのが9時過ぎですから2時間弱、ほとんどの区間はただ歩いていればいいだけですから下りは簡単で楽しかったです。

 


今年の雪山シーズンはこれにて終了。

3月2日の磐梯山からずいぶん間が開いてしまいましたが、こうして気持ちの区切りがついてすっきりとシーズンを終えられて満足です。3月から何度も登りに来ようとしては諦めていましたけど、他のどんな日に登っても今日以上の楽しさは得られなかっただろうな、そう思える最高の一日が過ごせました。雪原に入って剣ヶ峰を眼前に臨んだあの時間、 風もなくただ静寂に包まれていたあの空間、忘れえぬ思い出です。

 

冬期登山者はそれほど多くない割に、遭難が多いこの乗鞍岳。今年も2月から3月にかけて4件の滑落事故が発生するなど、やはりあの朝日岳の斜面は相応の技量を要求される場所になります。ですので安易におすすめはしませんが、しっかりとした雪山の知識と技術を身に着けたら、まずはこの時期の好天の日にチャレンジするのが良いかと思います。標高3,000mの真っ青な空と、白く浮かび上がる北アルプスの眺めは、きっと素晴らしい思い出になると思いますよ!