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登山とマラソン、ときどきゲーム

第4回 経ヶ岳バーティカルリミット

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2018年5月19日。

2018年初のトレラン、その舞台に選んだのは長野県・南箕輪村の経ヶ岳。

中央アルプス北端に位置するこの山、その標高2,296mまで一気に駆け上がるコースは、これまでに私が挑んできたトレランの中で最も厳しいものであることは間違いありません。

好成績は望めなくとも、せめて制限時間内での完走を……と思って臨んだ大会。果たして結果は……?

 

会場となるのは南箕輪村の大芝公園。なのでまずはそこに向かうわけですが、これが一筋縄ではいきません。

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というのも、まず栃木県北から南箕輪村は単純に遠いんですよね。その距離たるや300kmを越えてまして、所要時間は5時間程度を覚悟せねばなりません。

 

更に、大会は土曜日です。土曜日開催だと、翌日の日曜日をレースの後始末や観光、疲労回復に充てることができるのでありがたくはあるのですが、こうして会場が遠いと金曜日の仕事が終わってから寝る時間が確保できなくなります。今日も真夜中のドライブです。これは辛い……

 

暑いのか寒いのか、それが問題だ

道中、姥捨SAで仮眠したりして、会場に着いたのは7:00。

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この大会には種目が4つありまして、私が出走するのはロングの部。受付は8:30からですから早く着きすぎてしまいました。駐車場は広いので、ゆっくり目に着いても問題なさそうです。

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時間になったので受付へ。当日受付なのでゼッケンや記念のTシャツなどはここで受け取ります。

スタートゲートが格好いいですね。無事ここに戻ってこられるといいのですが

 

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さて、ここで気になるのが今日の天気です。

朝まで降っていた雨はすっかり止み、空は晴れ渡りつつあります。このままいけば気温は上がるでしょう。

しかし、山頂はここから1,500mも上。例えばここの気温が23度になるとしても、山頂は13度にしかならない計算です。しかも写真には写りませんが、朝からずっと冷たい風が強く吹いていて、しばらく収まりそうにない雰囲気。

普通に考えればトレランなので暑いと思っていいんでしょうけど、最近体調不良で温度調整がうまくできないので不安です。結局Tシャツ1枚で行くことにしましたが、果たしてどうなることやら。

 

みんな、生きて帰ろう

公園を散策したり仮眠したりしているうちに10時になりましたので、レース前のブリーフィングに参加。

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主催者からコースの説明や持ち物についてのアドバイスを受けます。山中にエイドはないので飲み物は1.5L以上持つこと、上の方は寒いので防寒着も用意すること、そして、事故にはくれぐれも注意すること。

トレランは狭い山道を駆け抜けるわけですから、ロードに比べると明らかに危険な競技ではあります。去年も別の大会で滑落死亡事故があった通り、一歩間違えれば死んでもおかしくない競技。

朝の爽やかな雰囲気の中ではともすれば場違いに聞こえる「生きて帰ってきてください」というコメントは、決して冗談として聞き流していいものではありません。改めて気合を入れ直しました。

そして10:30、ついに21kmのバトルの幕が上がりました。

 

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大芝公園を出て、まずは4kmほどロードを上がっていきます。正面の一番高いピークが目指す経ヶ岳の山頂です。あそこまで行くのか……(^-^;

 

最近、謎の体調不良(病院巡りしていますが原因不明)でセカンドウィンドに入るまでがとにかくきついのと、傾斜もそこそこ(4kmで220mの上り)ということもあって、2kmも走らないうちに早くも歩きに移行しました(^-^;

最後尾スタートなので周りの方々も同じ感じで、早くも歩け歩け大会に(笑) まあ本番は山に入ってからですからね。さすがにこのロードは暑いですし、無理しないようにしましょう。

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舗装路が終わると林道へ。新緑に囲まれて一気にトレランぽくなってきます。横には沢が流れていて雰囲気は最高。いいねぇ、いいねぇ!

 

この後、4km地点に最初のエイドがあります。スポドリやコーラなど飲み物各種と、バナナ、チップスターなど内容は充実。

なお、この次のエイドは下山後の16km地点にある仲仙寺のエイドです。前述した通り、山の中にはエイドはありません。山は自己責任の世界ですからね、自分を救えるのは自分だけ。必要な飲み物、食べ物は持って走りましょう。

 

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4.5kmで林道は終わり、いよいよ登山道(黒沢山ルート)に入っていきます。

 

勝負はここから。この登山口(標高約1,020m)から2,296mの山頂まで、つづら折れの急登が延々と5kmほど続きます。

水平移動に対する上昇量は1kmあたりおよそ255mですから、山屋さんならかなりの斜度だということがわかっていただけるでしょう。ちなみにGPS記録からざっくり計算してみると、例えば直登で有名な男体山の4合目から山頂までは1kmあたりおよそ210m、富士山吉田口ルートの六合目から山頂までは1kmあたりおよそ217mですから、それらを優に上回るわけです。まさにバーティカルリミット。

 

しかも道幅は(特に序盤は)広くなく、40cmあるかないかですから実質的に追い抜きはできません。ですので上位を目指す方はロードで先行しておくのが賢明だと思います。

数珠つなぎになりながら登っていく参加者たち。さすがにここは皆さん余裕がなくて、ただ息を切らせながら黙々と登っている方が大半でした。

 

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もちろん私も余裕などありません。

この斜度でも走れてしまう先頭集団の人外のような方々を無視するとすれば、自分は登りではそれほど遅い方だとは思っていなくて、これまでに何度か出場しているトレランの大会でも、登りではむしろ追い抜いていくことの方が多かったものでした。

しかし今日は後方集団にいても周りが早くて、しかも数珠繋ぎですからペースを落とすわけにもいかず、自分のペースと合ってない……!と思いながら登っていたら両ふくらはぎが攣りました(^-^; ロードならともかく、登山では普通ふくらはぎの筋肉なんて使いませんから、攣るなんて初めての経験。だめだこりゃ。

ということで少し休憩して、全体がばらけてから登っていきました。

 

風は冷たいが、スタッフは熱い

ただ、そんな急登も高度を稼ぐという意味ではありがたくて、ふとGPSを見るとあっという間に100m登れていたりします。

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いつしか標高は2,000mを越えており、伊那の街並みを見下ろせるようになりました。向かいには甲斐駒・仙丈も。いい眺めですね。

ちなみにこの時点でスタートから8kmちょっと、時間は2時間30分ほどですが、なんと1位の方はすでにゴールしていたりします。同じ人間とは思えない……

 

さて、危惧していた通り、やはり上の方は寒いです。風は全然収まらないどころかむしろ強くなってきましたし、しかもなぜか北風でもないのにやたら冷たくて冷えるのなんの。

レインウェアがなかったらかなりやばかったかもしれません。周りの方々もさすがに寒かったようで、上着を羽織っているシーンが多く見られました。

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場所によってはまだ雪も残ってますしね。

もっとも今年は残雪はかなり少ないようで、雪の上を歩く場面はほとんどなくて済みました。

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13:32、9合目手前の関門を通過。

ここはこの大会唯一の関門で、15:00を過ぎてから到着した場合は山頂には向かえず、そのまま下山することになります。まだ時間前ですから写真向かって右手奥に向かって進み、山頂を目指しましょう。

 

ちなみに、この手前の分岐やこの分岐、そして山頂などにも大勢のスタッフの方がいて、工夫を凝らした応援を送ってくれます。

この大会、トータルでも大変満足できた大会になったのですが、一番感心したのはこのスタッフ・ボランティアの方々についてでしょうか。そもそもまずここまで登ってくるだけでも一苦労なのに、更に参加者の応援やフォローをしたのち、歩いて下山しなければならないわけですから、その労力たるや半端なものではありません。

これを他人のためにやれるって凄いことだと思うのですよ。それでいて全然辛そうではなくて、送ってくれるエールは大変力になるものなのでした。本当に感謝です。 

 

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山頂は分岐からピストンなので、往路と復路の選手が交錯します。ここでは早い方、すなわち戻ってくる選手が優先です。待ち時間こそそこそこあったものの、ほとんどの方がルールをきちんと守っていて、不快に思う場面はなし。

 

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14:02、ようやく経ヶ岳・山頂に到着!

さすがに一息入れる方々が多かったです。自分は道中で食事を済ませてしまいましたし、この山頂は展望がないこともあり、すぐに下山にかかることにしました。

 

いよいよトレランの醍醐味を味わう時が

さて、折り返したことでだいぶ元気も復活してきました。

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そして楽しみもここから。9合目手前の分岐まで戻り、少し進むと視界が開けて…… 

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この大会で最高の絶景ポイントへ!

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正面の南アルプスから右手の木曽駒まで、素晴らしい展望が広がります。最高だね! 皆さんも立ち止まって撮影に勤しんでいました。

 

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更にここから、ようやく私でも走れるようになってきました。

これまでは最初のロードを少し走っただけで以後は歩いて登っていましたから、トレランと言いつつただのトレイルでしたが、ここにきてやっとランの要素が。

しかも斜度がちょうどいいんですよね。登りと下りは別ルートで、こちらの傾斜はちょうど気分良く走れる角度。道幅もおおむね広いですし、慣れている人なら下まで走り通せそうです。

これで一気にテンションが上がり、自分なりに快調に走り下りていきます。スタッフさんからも「ナイスラン!」という掛け声を何度もいただきました。

 

自分はロードの下りは好きじゃないんですけど、トレイルの下りは走っていて本当に楽しいです。ロードと違って山は足元が不整地ですから、普段の登山でもどこに足を置くかは常に考えながら歩くのですが、走りながらだと例えば「右足はまずあそこに置いて、次にはあそこに置きたいから左足はそこに置いて……」という二手三手先の読みを瞬時に処理し続けることになります。これがね~、本当に極限まで頭を使っている感じで痺れるのですよ、ホント、アドレナリン全開って感じで! これがトレランの醍醐味だよな~なんて思いながら、16kmの仲仙寺のエイドまで快調に降りることができました。

 

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仲仙寺からはゴールまで4kmのロード。最後の頑張りどころですね。

と言いつつ自分は先ほどの下りですっかり満足してしまって、もうタイムはどうでもいいや……と思いながら歩いていきました(^-^;

おかげでトレイルで追い抜いた方々に次々と抜き返されましたが、まあいいでしょう。制限時間内のゴールは確実ですからそれで充分です。最後、さすがに大芝公園に戻ってからは走って……

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16時過ぎ、無事にゴール! 生きて帰ってこられました(^-^)

順位はもう本当に下の方でしたけど、思ったより疲れてはいなくて、ゴール後に起き上がれないなんてこともなかったのは意外でした。(ただし、後日左膝が壊れていることが判明しましたが……)

これ、距離としてはハーフと同じですけど、ハーフだったらむしろもっと疲れてると思うんですよね。山中で歩いているということもあるとは思いますが、やはり気分的には自分にはロードよりトレランの方が向いているようです。

 

完走証、お茶とおにぎりをいただいて、心地良い疲労感と共に車に戻りました。この後は公園内のレストランでジェラートを食べた後、少し離れたみはらしの湯で汗を流して、伊那のルートインで一泊。翌日は観光しつつ栃木に帰るという、充実した週末を過ごすことができました。

 

大会を振り返って

これはもう私なんかがコメントする必要を感じないほど素晴らしい大会でした。

天候に恵まれたので余計にそう思う面もあると思いますが、まず、抜けるような青空の下、新緑に囲まれた南箕輪村の雰囲気の爽やかなこと! 初夏ってこんなに気持ちのいい季節なんだ……と改めて思わせてくれる環境でした。

そしてとにかくスタッフ・ボランティアさんの熱意、面倒見の良さが最高。自分たちが盛り上げるんだ、ランナーに楽しんでもらうんだという意気込みをひしひしと感じました。これはもう本当に感動ものでした。

コースはバーティカルリミットの名にふさわしく決して簡単なものではありませんが、その分、達成感も格別。登り切ってから眺めたあのご褒美ともいえる景色は、多くのランナーさんの心に刻み込まれたことでしょう。

この大会が初めてのトレランだという方も大勢おられましたし、もし少しでも興味が湧いた方はぜひ参加してみてください。きっとやみつきになると思いますよ。

最後になりましたが、スタッフ・ボランティアさん、そして応援してくださった南箕輪村の皆様、ありがとうございました!