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登山とマラソン、ときどきゲーム

双六岳・笠ヶ岳 (北ア南部周遊7日間) 6日目

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2015年の夏に北アルプス南部を7日間かけて歩きました。
その6日目の記録です。

 

★ 6日目 7/31(金) 【 双六小屋 → 笠ヶ岳山荘 】

ここ数年、この双六では少々の期待と大きな不安を抱えながら朝を迎えるのが常でした。なぜならここでの目覚めは、槍越えを控えたものだったからです。もし雨だったりしたら、縦走そのものの成否が危ぶまれてしまいます。

 

ですが今年は行程が逆なので、すでに槍は越えました。

昨日までの行程だけでも十分満足できるもので、ここで終わっても悔いはありません。ですから、もし天気が悪かったらそれを素直に受け入れて、小池新道で下山しようと思っていました。そしてもし、もし晴れたら…… 

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そう、ボーナスステージの幕開けです。

 

極上の天空散歩

今日向かう笠ヶ岳山荘までのCTは5時間15分。疲労が蓄積した今では苦戦しそうな道のりで、余裕はありません。

しかし、空は雲一つない快晴。この状況で双六を無視して先に進む手はないですよね。まずはウォーミングアップとして、双六山頂から景色を楽しむことにしましょう。

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まずは小屋裏の急登を登り切って。

三俣方面の巻き道分岐にはご来光を待つ人がちらほらと。

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小屋から山頂まではCT1時間ですから、意外と簡単ではありません。急登も多いですしね。

でもその急登を登りきると、この双六ならではの景色が広がります。北アでもなかなかない珍しい地形で有名なところですが、帰路に堪能することにしてまずは山頂へ。

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5:19、双六岳・山頂着。

双六小屋には毎年のように訪れているにも関わらず、悪天で毎年巻き道を通っていましたから、この山頂を踏むのは4年ぶりです。

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若干空気は霞んでいるものの、黒部五郎から薬師、水晶、鷲羽、槍、そして今日向かう笠ヶ岳までバッチリ見えていました。

いい眺めですよね。ここ数年の無念を思うとちょっと感激ものでした(^-^)

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4年前に歩いた三俣蓮華岳までの稜線。

これまでいくつもの道を歩いてきましたが、初めてこの稜線を歩いた時のあの感動は今でも心に残っています。今回は眺めるだけですが、またいつの日か歩きに来てみたいものです。

 

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心のエネルギー充填完了。テント場に戻りましょう。

双六山頂からは正面に槍を見据えて、この平坦な大地を歩くことになります。 朝の散歩としてはあまりにも贅沢な景色の中、あえてゆっくりと。非日常の極致のような世界にいられる喜びは、これまでの苦労を忘れさせてくれるものでした。

 

こんな景色だったのか!

さて、それではいよいよ笠ヶ岳に向かいましょうか!

テントをたたんで、7:31、双六小屋を後にします。

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まずは弓折乗越まで。この道はもう通いなれたもので、歩くのは実に6回目。

でも今日は新鮮な気分です。というのもここを歩いていて見晴らしが良いのは今日が初めてだから。今まではずっと曇りだったり雨だったりしたんですよね。ここからは何が見えるんだろう……と思いながら歩くのが常でしたから、今日はもうテンション上がりまくりなのです。そしてその景色はというと……

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振り返れば双六小屋と鷲羽、

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左手には槍と西鎌、

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右手には(写真だと見えませんが)白山、

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正面には焼岳と乗鞍が見え、そしてさらに登れば……

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これから向かう笠ヶ岳への稜線が一望できます。

これにはビックリでした。えっ、こんなダイナミックな景色が見られる道だったのか!と。

これまで正直なところ面白みに欠ける道だよな……と思っていましたが、これなら他人にもお勧めできるかも。とにかく目に映る景色すべてが新鮮で、ついつい足が止まりがちになったものでした。

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弓折乗越着、8:39。ここまではもう最高の一言でした。

 

山の日差しは強烈で

さて、ここからは未知の領域になります。いつもは降りる分岐を見送って、そのまま稜線へ。

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初めてのルートは楽しいもので、最初のうちはこんな登りも苦になりませんでした。

 

しかし私の縦走が順風満帆にいくわけもなく、今日もトラブルが発生し始めます。

その一つが左腕の痛み。

1日目の記録に「今年は長袖アンダー+半袖Tシャツを着てきました」と書きましたが、2日目以降は暑すぎるのでこのアンダーは着ていません。そしていつもは持ってくるアームカバーが今回はないので、両腕はむき出しの状態でした。

もちろん日焼け止めは毎日塗っていますけど、稜線の日差しの前では役者不足感は否めません。一昨日の槍ヶ岳で2時間ほどボケ~っと西鎌を眺めていた時と、今日のここまでの行程で常に左側から日を浴びていた結果、左腕は日焼けを通り越してやけどに近い状態になってしまっていました。

これがね~、もう痛いのなんの! 日陰なら大丈夫なんですが、ちょっとでも日に当たるともうたまったものではありません。我慢していると下界に降りた後に後遺症が残りそうなほどです。

 

とはいえ、暑いのでアンダーを着るわけにもいきません。そこで、ここからは左腕だけタオルでぐるぐる巻きにしていきました。もちろんそのままだとすぐに外れるので、テントの細引きでがんじがらめに縛っておきます。

もう見た目的にはあからさまに変で、なんか「静まれ……俺の左手……!」というような厨二病感でいっぱいですが、背に腹は代えられません。

今日は金曜日だからか登山者の数もそれなりで、いろいろ会話もしましたが、誰一人としてこの左腕のことには触れませんでした。みんな、あれは見なかったことにしようと思ったようです。

教訓:夏の北アルプスで半袖は自殺行為。せめてアームカバーは持ってくること。

 

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そしてもう一つの問題が、とにかく今日は暑いこと。

これまでも暑いと言ってたじゃねぇか!と思われそうですけど、今日、そして最終日の暑さは本当に尋常じゃなかったんです。麓の長野も35.1℃だったそうですが、そうはいってもここは北アの稜線。標高2,500mを越えているんですからそんなに暑いはずはないのに……

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そのため、この辺りでもう余裕はまったくなくなりました。

例えばこの大ノマ岳。登山道は山頂を巻いていますから、そのままスルーして進みます。拡大すると登山者が立っているところが山頂で、登山道からの距離はわずかなのに、そこまで行く気力がないのです。

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しかも道中は思ったほど簡単でもありませんでした。

アップダウンは多いですし、大ノマ岳の先にはこんなところもあったり。もっともここは実際に歩いてみると思ったほど道幅は狭くなく(40cmくらいはあったような?)、それほど怖くもありませんでしたが、遠めに見た時は肝を冷やしたものです。

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秩父平の手前から、これから向かう稜線を眺めて。

暑い理由はこの写真を見るとよくわかります。まず風は吹いてはいるのですが、いつものように飛騨側→長野側という流れですから、稜線の長野側にいる間は風に当たることはできません。

そしてその長野側はガスが沸いていますが、ガスは登山道までは上がってきていません。もし登山道が飛騨側だったり、ガスがもっと上がってくれればこの地獄からは解放されるんですけど、登山道はここを登りきるまでは飛騨側に移りませんし、ガスはもう1時間ほど前からずっとあの高さで固定されています。

助けてくれ……!(T▽T)

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秩父平では雷鳥の家族がウロチョロしていましたけど、もう雷鳥に構う余裕などあろうはずもなく、なぜこいつらはいつも進路上にいるんだ……と思いながら小声で「どいて、どいて~!」と呼びかけることしかできません。

そしてマイペースな彼らはどいてくれません。くそっ、特別天然記念物だと思っていい気になりやがって……(^-^;

 

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秩父平の雪渓を、笠ヶ岳山荘のスタッフが張ってくれたローブを使って越えます。

このロープが張られるまではアイゼンなしでは登れそうにないです。ロープがあるかどうかはネットで調べられますので、事前にチェックしておきましょう。

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雪渓を越えて一登りすると、あとはあの稜線を辿るだけ。

……でも、長いんですよね~、この道……

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なぜかここはいつもガスっていて先が見えないので、あのピークは笠ヶ岳か!?と思って裏切られることが何回も続きます。2年前に来た時と同じく、同じペースで休み休み歩いている他の登山者と「長いですね、この道」「長いですよね~」という会話を繰り返しながら、何とか一歩ずつ歩を進めて、そして……

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13:46、命からがら、何とか笠ヶ岳山荘のテント場にたどり着くことができました。コースタイムを実に1時間もオーバー。情けないものです(^-^;

 

ん?どこかで見覚えが……

テントを設営したら小屋に向かいましょう。(小屋までは5~10分ほどの登りです)

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ここのテント場は北アルプスでも一二を争うくらい展望の良いテント場だと思うのですが、いつ来てもこんな感じでそれを証明することができなくて残念です。明日は晴れてくれるといいのですが。

 

小屋に着いたらテントの受付をして、さっそくあれを……今年もありますように……!

ということで冒頭の写真のクーリッシュをゲット! 暑い中歩いてきた身には最高のご褒美です。

ついでに……というわけでもないですが、早めの夕食として外来食堂でカレーもいただきます。今回の縦走では河童橋で山賊焼き定食、横尾でチャーハン、槍ヶ岳で牛丼、双六でラーメンを食べてきましたが、疲労もあってかここのカレーはもう極上のおいしさでした。思わず二杯目を頼みそうになったくらい。

 

ちなみに自分の縦走記録では食事の話はほとんど出てきませんが、これは食事に手間暇をかける余裕がないためです。今回の縦走での食事はカロリーのほとんどを行動食(柿ピー、キャラメル、ハイチュウ、ソイジョイ、サラミ)でまかなっていて、朝と夜はカロリーメイトだけで過ごしています。

いえ、昔はラーメンとかアルファ米、パスタも使ってたんですよ。ただ、本当に疲れてくるとこれらのものは食べられなくなってきて、毎年デッドウェイトにしかなっていないので、もうこれカロリーメイトだけでいいんじゃないですかね...…という結論に至りまして。

 

とはいえ、1日で5000~8000kcalは消費するであろう縦走において、1本100kcalしかないカロリーメイトでどうにかできるはずもなく、日々体力は落ちていきます。さすがに1日に50本もカロリーメイトは食べられないですし、ザックに入りませんしね(^-^; ここは今後何か考えていかなければならないところです。

 

……話がそれましたが、カレーごちそうさまでした。北アの山小屋をいくつも回ってみた中で、この笠ヶ岳山荘と双六小屋はいつ来てもスタッフの方々の雰囲気がとてもよくて、お気に入りの山小屋なのでした。

(この時に笠ヶ岳山荘Tシャツを買い忘れたことは、この縦走で最大の失敗でした)

 

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ついでに、一応山頂にも登っておきます。ここに来たのは2度目ですが、眺めはまさに前回と同じで、全周にわたって雲しか見えません。まあ時間も遅いですし、仕方ないですね。テント場に戻りましょう。

 


そしてテント場に戻ったら、あとはもうまったりして寝るだけです。

ですが今回は少し面白いことがあったので、長くてすみませんが最後にもうひと話題だけ書かせてください。

暇なのでテントの外で本を読んでいたときのことです。男性二人組のパーティが来て、横のサイトに張っていいですか?と言われました。まあここまではいつものことですね。

ただ、いいですよ~、と答えて顔を上げると、そのお二人に見覚えがあって……

取材旅行でしょうからネタバレはまずいと思ってこれまで伏せてきましたが、もう2年半も経ったので書いてしまうと、PEAKSなどでおなじみの高橋庄太郎さんと矢島カメラマンでした。へえ、普通に山を歩いてるんだ(当たり前だろ)、とちょっとびっくり。

お二人はテントを設営した後も撮影などで忙しいようでしたのであまり話はしませんでしたけど、矢島さんと少し話したところとても物腰の柔らかい方で好印象でした。ちなみに、いくらお二人とは言えどもさすが行く先々で山ガールが群れてきたりはしないそうですが(笑)、やはり道中で話しかけられることは多いそうで、有名人は大変だなあ、と。

 

さて、結局この日、ガスが消えることはありませんでした。

明日はいよいよ最終日、どんな結末を迎えることになるのでしょうか。