2015年の夏に北アルプス南部を7日間かけて歩きました。
その4日目の記録です。
★ 4日目 7/29(水) 【 ババ平 → 槍ヶ岳山荘 】
昨夜は早く寝られたものの、深夜に「ミクちゃん事件」(仮称)が発生して2時に叩き起こされるという予想外の事態に。
当のミクちゃんは悪くないと思うのであまり書きませんが、深夜のテント場で叫ぶのはやめましょうね、皆さん……
ともあれ、睡眠時間自体は十分確保できました。この後はちゃんと寝られそうにもなかったので、4時までゴロゴロしたら出発準備を開始。
そう、悪く言えばダラダラ行動しているこの7日間において、唯一時間に縛られているのが今日の行程なのです。
というのも、今日の目的地は槍ヶ岳山荘のテント場。そこは北アルプスに数多あるテント場の中でも、最も需要と供給が釣り合っていないテント場だといっても過言ではないでしょう。
たったの30張しかないスペースに対して、西鎌・東鎌・そしてこの槍沢から登山者が押し寄せるのですから、争奪戦が起きるのも必然というもの。ハイシーズンでは午前11時を待たずして満員になってしまうほどの人気を誇るテント場です。
今日は水曜日ですからそこまで過酷ではないと思いますが、だからこそ今回はなんとしてもあの場所にテントを張りたい……! そのためには、今日だけはガチで行動しなければなりません。
そういう意味で、周りのテント泊の方々の7割ほどは潜在的なライバルであるわけですが、皆さんミクちゃん事件の後遺症で二度寝したらしく、どうにも動きが鈍いようです。
これは出し抜くチャンスですね! ばれないうちにとっとと出発してしまいましょう。ということで、5:14、恐らくテント泊組の中ではトップで歩き出しました。
敵はどこから
まだ残る雪渓を横目に、淡々と登っていきます。
しかし今日もペースは上がらず、槍沢ロッヂ泊と思われる軽装の方々に次々と追い抜かれる始末。ろくに登っていないとはいえ山中4日目ですからね、さすがに疲労が溜まってきているようです。
ただ、山荘泊の方に抜かれるのは別に問題ないのです。今日の相手はテン泊登山者のみ。まず最初の敵はババ平組ですから、彼らに抜かれるわけにはいきません。……とか言っているうちにさっそく最初の1名に追い抜かれました。おいおい、大丈夫……?
場所によっては夏道はまだ雪の下で、雪渓を越えていく場面もあり。ここは傾斜が緩いので問題ありませんでしたが、7月の北アはまだ軽アイゼンがないと通れないルートもあります。事前に下調べはしておきましょう。
1時間も歩かないうちに、早くもバテてきました。
今日はこの縦走の中で一番ハードな日でもあり、ババ平から槍ヶ岳山荘までは1,000m以上登らなければなりません。昨日まで旅行気分でしたから精神的にもきついのです。
ですので前後左右に注意を配って、とにかくテン泊登山者にだけ気をつけることにしました。テン泊登山者さえいなければ急ぐ必要はありませんからね。
西鎌や北鎌、南岳方面から来る登山者は多くないでしょうから、ライバルはこの道を歩いている人と、東鎌尾根を辿っている人だけ。なのでたまに東鎌尾根を眺めて、登山者をチェックしながら歩いていきます。あの荷物は山荘泊だな……とか。もう行程を楽しむ余裕はありません(^-^;
もはや蒸し風呂
でも、この辺りまではまだ良かったんです。
天狗原分岐を過ぎる頃になると、東鎌尾根との高度差がなくなってきたために谷にも日差しが差し込んできました。
そうしたらこれが暑いんですよ! 風はそよとも吹かないし、雪渓も少なくなってきたので冷える要素がなくなってしまいまして、それでいて斜度はきつくなってきたので、もう汗だくです。
小休止も頻繁になってきました。花を撮っているふりをしたりしてごまかしてはいますが、どう見てもばてているだけです本当にありがとうございました。
もっとも暑いのは自分だけではなく、追い抜いていく方々も口々に「暑いですね~」なんて言ってはいるのですが、それでも周りはそれなりのペースで登れているんですよね。
昨日も言っていましたが、とにかく自分は暑いのはダメです。そしてこの暑さには、縦走最終日まで苦しめられ続けることになるのでした。
そうこうしているうちに、辺りはガスに覆われてきました。
しめた!これで涼しくなるはず……と思ったのもつかの間、体感温度はほとんど変わらないばかりか、湿度が増したのでむしろ状況は悪化。いまや蒸し風呂の中を歩いているようです。ぎゃああ、助けてくれ!
ただそうは言ってもここまではさほど遅くもなかったようで、登り始めから3時間弱、8時にはここにいました。
殺生ヒュッテまではもう目と鼻の先、槍ヶ岳山荘も見えています。ババ平から槍ヶ岳山荘までのCTはおよそ4時間、殺生ヒュッテから槍ヶ岳山荘まではおよそ45分ですから、今のところはCT通りに登ってきているようです。
よし、あと1時間で到着だぜ~! ……と、この時は思ったものでした。
でも実際のところ、ここから山荘までは2時間かかったのでした。
なんで2時間もかかったのかなぁ……
この頃になると暑さのあまり意識がもうろうとしていて、記憶も曖昧。なので写真から記憶を呼び戻してみましょうか。例えばこれは……確か疲れ果てて道端に座ってて、振り返った時に雲と登山者がいかにも夏という雰囲気でフォトジェニックだな、とか思っていたような気がしますね。実際の写真は全くダメですが。
これは殺生ヒュッテの横を通りがかった時のものですね。まだ9時過ぎですからがら空きで、ここに張っちゃいたいな……なんて思っていたものです。
……って、ここで9時なのか! さきほどの下からヒュッテを見上げた写真が8:01、これが9:05ですから、たったあれだけの距離を登るのに1時間かかっていたことになります。そりゃ山荘まで2時間かかるわけだわ。なにしてたんだろう、寝ていたのだろうか……?
ということで、その後はそれなりのペースで登ったようです。東鎌と合流するところまではただの岩屑の道を登っていくだけなので体力勝負、その先はちょっとだけ危険なところも出てきますが、怖かった記憶はないので注意して通れば問題ないでしょう。
東鎌から来るテン泊登山者の数は多くなく、この頃には心理的な余裕も出てきました。
10:02、槍ヶ岳山荘に到着。
槍には登らないよ
ザックを置いたら、何はさておき受付に駆け込みます。
ここのテント場は先着順で場所指定。どういう割り当て順なのか正確には知りませんが、この日は東側からの割り当てでした。先客さんは4名くらいだったと思います。余裕があって一安心。
というわけで自分に割り当てられたのはこちら、「F」のサイトになります。
これだとサイズ感が分かりにくいでしょうか? グラウンドシートを敷いてみるとこんな感じに。
居住空間は平らなところが確保できて一安心。前室と四隅はちょっとキツキツですけどね。
この割り当て場所はテントサイズも考慮されますから、もし1人用テントだったらまた別の場所になっていたかもしれませんが(私のテントはステラリッジの2型)、こうしてスペースに余裕がないと、やっぱり1人用テントも欲しくなったりします。
ソロ登山者のテント選びは1人用にすべきか、それとも2人用にすべきかというのは永遠のテーマで、これは一概にどちらがいいとは言えないものです。
利便性に優れているのは言うまでもなく2人用で、店頭で相談しても2人用にすべきというアドバイスをもらうことが多いようです。実際に使ってみればわかりますが、横幅が90cmか130cmかというのはユーティリティ性からみれば非常に大きな違いで、130cmを1人で使う場合、例えばザックの中身を出してマットの下に敷いて......とか、そうした工夫は一切要りません。ザックはマットの横に放り投げておけばよいのです。
そして、ザックがこのようにフリーになるということは、前日の時点ですでにパッキングがほとんど終えられるということにもなります。だいたいテント泊の夕方は暇なので、この空き時間にパッキングを済ませておけば、翌朝は出発を早くできます。もしこれが1人用テントならば、ザックは中身を出した状態で翌朝を迎えますから、パッキングは起床してから、ということになるでしょう。
高校や大学で山岳部に所属したことがある人ならこの程度は苦でもないでしょうけど、社会人になってから登山デビューとかだと、こうしたことは案外大きな差になったりします。重量も大して変わらないとなれば、最初に選ぶのが2人用になるのは自然な流れでしょう。私も、もし他人に聞かれたら、最初は2人用にした方がいいとアドバイスします。
ただ、昨今のテント泊ブームもあり、北アのテント場も混んできつつある状況だと、「1人用のテントならここに張れたのにな......」と思うことが頻繁にあることも事実です。
今回の縦走は平日メインなのでテント場の混雑とは無縁ですが、お盆休みの山行なども考慮して、次は1人用のテントを買ってみたいですね。多少の不便さも、一泊、二泊程度なら楽しめるかもしれません。
さて、こうしてテントを張り終えたら今日のミッションは終了です。
まだ12時にもなっていないので暇ですが、することはありません。テントの正面にはこのように槍ヶ岳が見えて、順番待ちなど皆無ですから、普通の登山者からすれば垂涎もののシチュエーションだと思いますけど、自分は槍には登りません。
例によって周りのテントの方々になんで登らないんだと聞かれますが、高所恐怖症だと言うとだいたいは納得してもらえます。皆さん、もったいないね~と仰ってまして、それはごもっともなんですけど、最後のハシゴと山頂の狭さがね……
ちなみにこのFのサイトも一歩横は崖なので、昔だったらそもそもここで寝るのは無理だったと思います。今はこの程度は気にならなくなりましたから、慣れてはいるんですよね。なのでいつかは槍に登れる日も来るでしょう。
360°ガスっていて見晴らしがよくない中、かろうじて見える西鎌方面を眺めて。
2年連続で行く手を阻まれている因縁の西鎌。こうして眺めているとやはり闘争意欲をかきたてられます。今年こそ越えて、これまでの借りを返したいところです。
結局この日、大喰岳側のテントスペースはすべては埋まりませんでした。意外でしたけど、シーズンとはいえただの平日ならこういうこともあるんですね。
ガスの中に浮かんでいるのは笠ヶ岳。順調なら明後日にはあそこでテントを張っているはずですが、どうなることやら。
ヤマテンの予報では明日の午前中は局地的に雨とのことでした。
やはり西鎌は簡単には通してくれなさそうです。勝負の一日になりそうですね。