2018年8月18日。
甲斐駒テント泊から一か月、今度はのんびり楽しめる登山にしよう……そう思って選んだのがこの新潟県にある日本百名山の一つ、火打山。
そしてその山行は、自分が山に登る理由を改めて思い出させてくれる、貴重な山旅になったのでした。
今回も前置きが長いです。本文に飛びたい方は「ブナ林を抜けて」をクリックしてください。
後で読み返すときのために書いておくと、今年の夏は異常気象でした。
7月は晴れ続きの猛暑で関東甲信越では雨はほとんど降らず、そのあまりの暑さは 暑すぎて山になんか行きたくない と思うほど。標高2,900mでも25℃でした、なんて話を聞くと、山の上でも快適に過ごせないのは明らかです。例年は暑いから山に涼みに行きたいと思っているわけですから、これはもう異常としか言いようがありません。
ですのでせっかく晴れていたにもかかわらず、甲斐駒の後、しばらくは山行は取りやめに。その分はお盆の縦走で取り返せばいいやと思っていたわけですが、お盆の連休は一転して雨続きで、もう踏んだり蹴ったり……
ただ、連休最後の土日は晴れで猛暑も一段落するとのことでしたので、縦走は無理でもせめて日帰り登山には行きたいなと思いました。
そこで、最初は(以前登ったにもかかわらずレポが書けなかったので心残りになっている)鳥海山を狙っていたんですけど、どうも東北は中部や関東甲信越に比べると天気の回復が遅いようです。しかも間が悪いことにここで夏風邪をひいてしまい、行程の長い鳥海山に登るには不安が残る状況になってしまいました。
今回は別の用事もあって、できれば日本海に近い山がいいのです。そういう意味でも鳥海はおあつらえ向きだったのですが、無理は禁物。となればどこか別の山に……と思いながら地図を眺めていると、そういえば妙高、高妻、雨飾のエリアには一度も足を踏み入れたことがないな……ということに気づきました。
そうして最終的に選んだのが火打山でした。理由は単純で、この辺りの山では一番風景が綺麗そうだな、と思いまして。登山道にもハードなところはなく行程もそれほど長くないので、今の体調でも問題ないでしょう。
いきなり秋が来た
前日は日本海に寄った後、妙高SAで車中泊。4時に起きて登山口に向かいました。
笹ヶ峰キャンプ場までの県道36号線は峠道にしては広いですが、大型車相手だとすれ違いにくい場所もあるので注意して走ります。なお、自分はたまたまひっかかりませんでしたが、11月の頭までは夜間通行止めで、5時にならないと通れません。
火打山登山口駐車場着、5:25。
登山口に隣接したこの駐車場、キャパは40台程度でしょうか。前日から登っている方の車もあるようで、到着したときには8割がた埋まっていました。
停められなかった場合は、ここからほんの30mほど先に
笹ヶ峰キャンプ場の駐車場がありますのでこちらに。トイレも自販機もこちらにありますので、車中泊する場合などはこちらの方が便利ですね。
そんな駐車場の気温は5℃。……5℃⁉
一昨日までは誇張でなく本当に猛暑で死にそうだったのに、変化が雑すぎて笑えるくらい極端に下がりましたね。というか正直とても寒いです(^-^;
登山開始時に厚着をするのは上策ではないんですが、さすがに長袖Tシャツ1枚ではとても無理なので、上に薄手のフリースとEXライトウィンドジャケットを重ね着しました。 一昨日までは半袖Tシャツでも暑かったのになぁ……
ブナ林を抜けて
さて、それでは行きましょうか。5:56、登山開始。
火打山のすぐ隣には妙高山があり、最初は登山道が共通になっています。どちらも百名山ということもあり、一泊もしくは日帰りで両者に登る人も多いようです。
私は百名山そのものには興味がないので、今回は火打山への往復のみにしました。
登山口からしばらくは木道歩き。傾斜は10度あるかないか程度のゆるやかな上りです。
最近は登り始めからいきなり急登の山ばかりで苦労していましたが、こうして緩い登りで始まってくれると、準備運動も兼ねてじっくりペースを作っていけるのでありがたいですね。
まだ時間が早いのと、さすがに北アほどにはメジャーでない山域のためか、登山道を歩く人は多くありません。
静かなブナ林を抜けていくこの区間はまさに森林浴といった趣。うんうん、いい感じ(^-^)
6:42、最初のランドマークである黒沢橋を通過。
道中に沢がある山に来たのは久しぶりかな? やっぱり水場はいいですね、心が落ち着きます。先ほどまでのブナ林歩きも併せて、ここまでは登山というよりはハイキングのような印象でした。
山場は十二曲りの後
黒沢橋を越えると、登山道は一転して急登になります。
最初に現れるのは十二曲りと呼ばれるつづら折りの登り。
名前でちょっと身構える部分がありますが、実際にはよく整備されていて、ゆっくり登ればそう苦労することもないでしょう。登り終えたところに何があるわけでもなく、道中の一ポイントに過ぎませんので、あまり意識しすぎない方がいいと思います。
この辺りから徐々に視界が開けてきます。振り返れば後立山がすぐそこに。
しかし最高の天気ですね! きっと向こうの登山道も笑顔で溢れているのではないかと(^-^)
さて、十二曲りを抜けると、登山道の傾斜は更に厳しさを増します。ここが今回の登山で一番きついところです。十二曲りとは何だったのか(笑)
十二曲りは足だけで登れますが、この区間は手を使うところも何度か出てきます。こんな急斜面はここだけなので、焦らず自分のペースで登っていきましょう。
急登を抜けると傾斜は緩み、やがて空が開けてきて……
妙高山・火打山の分岐点に到着します。(8:11)
ここで登りはいったん終了。ここから小屋への道はトラバースで、アップダウンはほとんどありません。
ただ、岩やら木の根やらであんまり歩きやすくはないですけどね(^-^;
もっとも、そう感じるのはこの山の登山道が全般的によく整備されていることの裏返しなのかもしれません。別にここも普通の山の登山道と比べれば特に荒れているわけではないんです。これまでが歩きやすい道だったのでそう感じるだけなのかと。
ここでようやく火打山の山頂が見えてきます。山頂は麓からは見えないので、目にするのは初めて。おっ、なんだかんだで結構近くまで来ましたね!
樹林帯を抜ければ、もうほんのひと歩きで……
はい、高谷池ヒュッテに到着です。(8:54)
いざ楽園へ
今日のハイライトはこの後。ですが、その前に少し雑談をさせてください。
まず自分としては興味津々なテント場を視察。
地形的には盆地になりますが、焼山から火打山まで見えますし、横は湿原で雰囲気も良く、涼しい時期ならいかにも過ごしやすそうなテント場でした。う~ん、いつか張りに来てみたいなぁ。
そしてもう一つ。高谷池ヒュッテの工事のために資材の荷揚げが行われていたのですが、その荷揚げヘリがこちらの珍しいヘリでした。ご覧の通り、普通1枚しかないメインローターが2枚ありますよね(その代わりにテールローターがありません)。これがいわゆる二重反転式ローターで、機種名はKa-32A11BC型。隣で見ていたおっちゃん曰く、日本にこの一機しかないそうです。
二重反転式ローターのヘリを自分の目で見たのは初めてなのでちょっと嬉しかったり。この日は荷揚げで一日中往復していたので何度も近くで見られまして、マニアには垂涎ものだったのかも。
さて、小屋前でちょっと休憩させていただいたら、いよいよ山頂を目指します。
今日の楽しみはここから! この先の景色が見たくて火打山に来たんですから。
まずは小屋横の湿地をぐるっと迂回。もうこの眺めでテンションは↑↑で、
この風景を見た時に確信しました。これはきっと素晴らしい景色が見られるぞ!と。
そしてこの道を抜けた先には……
予想通り、楽園が待っていました。
そこは天狗の庭と呼ばれる高層湿原。いくつもある池塘に青空が映る様は、もう本当に言葉で言い表せないくらい綺麗。
湿原をぐるりと回る木道はアップダウンもなく、 風は本当に爽やかで、前日に降った雨により輝きを増した一面の緑の中を歩いていると、ここを通り過ぎるのがもったいなくてつい足を止めてしまうほど。
あ~、来て良かった、と心の底から思ったものでした。もう最高!その一言に尽きます。
山に登る理由
木道が終わると、再び急な登りに。
久々の登りなので、ピークへ急ぐ方々はそれなりに辛そうでした。
でも自分はのんびり登山なので疲労は感じず。だって振り向けば景色は……
こんなですからね! 駆け抜けたらもったいないな……と、あえてゆっくり登っていきました。
やがて最初の急登を越え、道は再びなだらかに。目の前には山頂が大きく見えます。あとはあの登りを残すだけ。
そして、その山頂へ斜めに走っている登山道を見て、ああ、あんなところを歩けるのか、きっと眺めも良くて爽快だろうな……と思った時に、ふと気づかされたことがありました。
そうか、これを求めて自分は山に登っていたんだった……
なぜ苦労して山に登るの?と問われたときに、うまく答えられる人って意外と少ないんじゃないかと思うんですよ。少なくとも私は答えられませんし、それどころか最近は、そもそもなぜ自分が山に行きたいのかよく分かっていなかったりしました。
でも、この瞬間にそれがパッと分かった気がしたんですよ。
少なくとも今、ここを歩いていることはすごく楽しいですし、これからもっと楽しそうな道を歩けることは幸せだと感じます。これが、こうして山にいることが楽しいと感じられることが、自分が山に行きたいと思う理由なんだなと。
ピークを踏破したい、百名山を制覇したい、自分の限界に挑戦したい……そういう目的意識を持った登山ももちろんありだと思います。でももともと自分はそういうタイプじゃないんですよね。百名山ハンターどころかピークハンターですらなくて、ただ自分が気持ちいいと思える場所に行きたい、それだけが目的。
今年の富士山や甲斐駒登山は(事情があってピークを踏むことを目的とした登山でしたから)どちらかと言えば道中は楽しさよりも辛さの方が大きくて。なのでこうして純粋に心から楽しいと思える登山は久しぶりだったのでした。
山頂へと続く最後の登り。右手には日本海が大きく見えますし、振り向けば遠く富士山までの広大な景色が広がっていて、もう気分はボーナスステージです。
先行する方から疲れませんか?と聞かれて、いえ、そこまででも……と答えたら、体力が違うのかな……と言われたんですけど、たぶんそうじゃないんだろうなと思っています。
斜度はそれなりなので、早く山頂へ!と思って登っていたら自分も疲れるでしょう。でも、自分の中では山頂は二の次で、それよりもここを歩けることの方が大事。嬉しくて、疲れているかどうかは全然気になりませんでした。気の持ちようで、こんなにも印象が違うものなんですね。
そうしているうちに、気づけば山頂が目の前にありました。
10:50、火打山・山頂に到着(^-^) 登りはおよそ5時間の道のりでした。
去りゆく夏を惜しんで
円状に開けた山頂からは360°の展望が広がっています。
妙高から富士山、高妻・戸隠、遠くに富士山、そして北アルプスと焼山。文句なしの眺めですね!
そして西側には日本海。
海なし県の住民としては山頂からこんなに海が大きく見えるのは珍しく、むしろこちらの眺めの方に心を惹かれたりしました。ずっと眺めていても見飽きないくらい。
山頂には20名ほどの登山者がいましたが、こちらを見ている方が多かったのは意外でしたね。やはり山にばかり行っていると、海が恋しくなるのかもしれません。
ススキの向こうに富士山。
見上げた空も、もうすっかり秋の気配です。
もう夏山シーズンも終わりかな…… 一昨日まで猛暑に辟易していましたけど、そう思うとやっぱりどこか寂しいですね。
さて、気づけば50分ほど経っていました。今日は夕方までに海に行かなければならないため、名残惜しいですが下山しましょうか。
11:41、下山開始。
正面に妙高を見据えて、来た道を戻ります。ただ……
あー、下りたくないなぁ……!
強すぎない日差しと、心地良い風。空は抜けるように青くて、私の求める夏山の魅力がすべてここにあるかのよう。時間が許すならずっとここにいたい…… そう思わせてくれる、本当に素敵な山でした。
こんなに下山したくないと思ったのは初めてかも。
何気ない光景の一つ一つが嬉しくて、つい足を止めてしまいます。
もちろん下りもそれなりに時間はかかりましたし、十二曲り前の急降下は少し大変でしたが、気分が良かったので疲労は感じずにすみました。
黒沢橋を抜けたら、あとは静かなブナ林をお散歩気分で歩いて……
15:09、登山口に帰還しました。お疲れさまでした!
高層湿原と山頂からの展望を楽しみに登った今回の火打山。
その景色は期待をはるかに超えるほど素晴らしく、山に登るって楽しい、そのことを改めて思い起こさせてくれました。間違いなく、この数年間でのベスト山行だったと思っています。
夏山シーズンが終わってしまうのは寂しいですが、こうして最後にこんな素敵な山に登れたことは本当に幸運でしたね。これまで登った山の中でも十指に数えられるほど好きな山になりました。
今回は晩夏でしたから、次は梅雨明けの花盛りの時期に再訪してみます。その時は高谷池にテントを張って、この山と共に一日を過ごしてみたいものです。その時はまたきっと、素晴らしい景色を見せてくれることでしょう。