2016年7月21日。
2016年の夏休み登山、五竜岳に続けて登ったのは同じく日本百名山の乗鞍岳。
初心者向けの山だと軽く見ていた面もありましたが、いざ登ってみれば、そこには想像を上回る素晴らしい世界が広がっていたのでした。
偶然掴んだ幸運
おはようございます。
ただいまの時刻は朝の6時10分。ここは乗鞍高原・観光センター前の第一駐車場で、発車直前のバスの車内から撮影しています。
なぜファーストショットがいきなりバスの中なのかというと、時間の余裕がなかったのでして……
今回の夏休み登山はスケジュールを詰め込むのをやめたので、最初の二日間で五竜岳、その翌日(つまり今日)は乗鞍岳、あとの三日間はフリー、という極めてアバウトな計画しか立てていませんでした。ちなみに今日の登山は半日で終わると思いますが、その後の予定はなく、いきあたりばったりになります。
なので今朝も宿泊先のホテルを適当な時間に出て、6時にこの駐車場に着きました。そしてふらふらとバス乗り場の様子を見に行くと、最初のバスは6時10分発、そして次発は7時と書いてあるじゃありませんか。
いくら時間に余裕があるといっても、50分間待ちぼうけはもったいない!
ということでマッハで準備して脱兎の勢いでチケットを買い、バスに飛び乗ったわけです。ですからこの瞬間までは写真を撮る余裕など全くありませんでした。なお、登山道具は車のラゲッジルームに散らばっていたのを適当に詰め込んだので、いくつか装備を置き忘れてきましたが、もはや後の祭り…… まあ今日は簡単な登山だし、レインウェアのような必須装備はあるので、何とかなるでしょう。
ちなみにバスの混み具合はご覧の通り。平日登山はこの余裕が嬉しいですね(^-^) そしてこのバスに乗れたことが、今日の登山にとってとても幸運な出来事になったのでした。
バスを降りれば、そこはまるで別世界
50分ほどバスに揺られて、終点の畳平(※)についたのは7時ちょっと過ぎ。
※なお、単に乗鞍岳だけに登りたい場合は、手前の「大雪渓・肩の小屋口」で降りた方が早いのでご注意。
さすがに標高2,700mともなれば空気は冷たく澄んでいて心地良いです。
さて、今回は適当登山なので下調べをしてなく、ただ地図を持ってきただけなのですが、改めて地図を見てみると、ここはなかなかのパラダイスじゃありませんか!
すでにこの畳平でも高所感はかなりのものなのに、周囲には展望がよさそうな小ピークがいくつもあります。そのどれもがお手軽で、例えば上の写真の右手にある魔王岳はコースタイムが10分程度。昨日まで片道6時間かけて五竜岳に登っていたことを思うと、その気楽さはもう感動を覚えるほどです。
当初の目的も忘れて、まずは魔王岳に……なんて思ったりもしましたが、ちょうど今は人も少ないですし、混まないうちに乗鞍岳に登ってしまうことにしましょう。
バスターミナル脇から登山開始。(7:14)
しばらくは遊歩道のような整備された道を辿っていきます。
道の左右には高山植物が競うように花を咲かせていました。
これだよ! 自分が求めている高山情緒はこれ!
「山高きが故に尊からず」ではないですが、私は単に高いだけの山って好きじゃないんですよね。富士山は五合目から登ったら面白くもなんともないし、地元でも男体山や那須岳(茶臼岳)は風情がないのであまり登りたくなりません。
でもこうして高山でしか咲かない花を見ると、いかにも別天地に来た!という感じがして、すごく特別な時間を過ごしていると思えたりします。そんなわけで、早くもこの時点でこの山のお気に入り度はかなり上がったりしたのでした。
なお、ここで振り返ると畳平の向こうに槍や穂高が見えます。へぇ、こっちから見るとずいぶん近く見えますね。
ただ、これまでは漠然と乗鞍って遠そうだな、なんて考えていましたけど、実際に来てみたら乗鞍高原まではすぐでしたから、 この距離も当然と言えば当然。こうやって見ると、山屋の感覚では歩いて行けそうですらありました。
圧倒的な非現実感
こうして20分ほど進んでいくと、道路に合流して東側の展望が開けるようになりました。
今回の登山で一番衝撃的だったのはこのシーンでしたね。東側はもう一面の雲海で、思わず足が止まります。なんだこれは……!
……え? 今更雲海が珍しいのかって?
いえ、そんなことはないですよ。昨日だって五竜から雲海見てましたしね。
ただ昨日やこれまでの登山と違うのは、これまでは少なくとも雲海を見るまでにそれなりに登っていたわけです。五竜なんてテン泊装備で4時間半も登ったわけで、その苦労と引き換えの雲海、ならもう何度も見ています。
でも今日は登ってませんからね。畳平まではバスですし、そこからは20分間水平移動しただけです。しかもここは
舗装こそされていないとはいえ、このようにガッツリ道路なわけです。
ただ道路を歩いたらそこは雲の上でした、なんて体験はなかなかなく、その意味ではこれまで見たどんな雲海よりも不思議というか、非現実感が凄かったです。
よく登山番組などでタレントさんが「日本にこんなところがあるのか」なんて言うシーンがあるじゃないですか。ああいう体験はさすがにこれだけ山に登っていると徐々になくなってくるので、今回はまさに久々の感覚でした。
日本にこんなところがあったのか……!
いよいよ山道へ
7:48、肩ノ小屋に到着。
道路歩きはここでおしまい。ここを抜けると道の雰囲気はがらりと変わって
岩々の登山道が現れます。
本格的な登りはここからで、山頂までのCTは50分。
とはいえ、しょせん50分。
この時間にここにいるような方々は物好きさん(失礼)なので、皆さん大して苦労されているようには見えませんでした。
もちろん、道はこんななので、登山靴とは言わないまでも歩きやすい靴で来るべきなのは当然ですが。
しかし、いつぞやの木曽駒もそうでしたが、縦走を終えた後の日帰り登山はホント気楽ですね! ザックなんか背負っていることすら感じないくらいですし、まさに足に羽が生えたようです。昨日の五竜はつらかったからなぁ……
岩々の急登を抜け、尾根伝いに山頂へ。
ここまで来ると西側の展望が開けます。上の画像の方が撮影されているのは
この権現池。澄んだ青が何とも言えずきれいでした。
ここまで来ればもう着いたようなものです。
最後の急登をあせらずにゆっくり登れば……
はい、乗鞍岳・山頂に到着しました。(8:24)
ガスに呑まれて
乗鞍岳山頂(剣ヶ峰)からは、360°の展望が楽しめます。
ただ、この頃になると東側や北側はガスに覆われてきて、北アルプスはすっかり見えなくなってしまいました。
パノラマも撮りましたが、雲しか写っていないので載せるのはやめておきます……
ただそれでも、この日の登山者の中ではかなり恵まれていた方なのですよ。この後はすっかりガスってしまって、登山道も見えないくらいでしたから。
朝、あそこで6時10分発のバスに乗れていて良かった…… まさに紙一重でした。
乗鞍の山頂は広くなく、40人もいたらもう休むところもなくなるくらいのスペースしかありません。シーズンは登頂待ち行列ができるみたいですけど、それも納得でした。
だんだん混んできたので、休憩は軽めにして帰路へ。
その帰路はこんな有様。これだと楽しみも半減してしまいますよね。
この頃になると、登山者の中にかなり観光客っぽい方々も混ざってきましたが、やはり皆さん、普通の靴での岩場歩きには苦労されているようでした。
あとはいつものことですが、やっぱり全体的に急ぎすぎかな…… 職場で登山を引率しているときも思いますが、慣れていないとどうしてもみんな急ぎがちになるんですよね。
まあしょせんCT50分の道のりですから、多少ばてても問題ないとは思いますが、もしいつもゼーハーしながら登っていて登山はつらいだけだと思っている方がおられましたら、機会があったら一度ゆっくり登ってみてください。世界が変わると思いますよ。
結局、この後はガスは晴れそうにもなかったので、10時に畳平に戻ったらそのままバスに乗って、乗鞍高原に降りてきてしまいました。魔王岳など、登ってみたいところに寄れなかったのが残念ですが、また次の機会に。
昨日までの五竜のスパルタ登山から一転、リフレッシュ登山となった今回の乗鞍岳。
実にいろいろな発見がありました。まず自分は乗鞍って上高地からだいぶ遠いんだと思っていたんですけど、なんのことはない、すぐ隣じゃないですか。北ア訪問はだいたい安曇野を拠点にして動くので、この近さなら何度でも通えそうです。
それに、予想よりもはるかに楽しみにあふれていた場所でした。これまで、初心者が初めて登る高い山としてお勧めなのは木曽駒一択だと考えていましたが、こっちも捨てがたいというか、八丁坂を登らなければならない木曽駒よりも、むしろ乗鞍の方が自分の力量に合わせたプランが組める分、勧めやすいかも。
剣ヶ峰そのものは荒涼とした火山ですが、周りには池あり、高山植物のお花畑もありで、高山の良さを十二分に味わえます。自分にとっては高山とはかくあるべきというイメージが形になったものと言っても過言でなく、今回の訪問で一気にお気に入りになった山でした。
今回は剣ヶ峰に登っただけなので、また近いうちに再訪して、次こそは遊びつくそうと思います。
おまけ:
乗鞍高原は晴れていたので、このまま帰るのが惜しくなり、この後は一の瀬園地を散策してきました。
そうしたらここはもうパラダイスですよ!
降り注ぐ夏の日差しも高原ゆえに暑くはなく、沢の流れは清涼そのもので、吹き渡る風の心地良いことと言ったら。もう夏の良さがすべてここに凝縮されていると言ってよく、またそのスケール感は、まるでここだけ時間がゆっくり流れているかのようでした。
凄いね、乗鞍高原! 次に来るときはここのキャンプ場にテントを張って、数日かけて、日本の夏の素晴らしさをたっぷり味わってくることにしましょう。